菜食 <ver1.1>
ずっと西の方から野菜を買い入れた。
それは約束より一日早く届き、荷運びには水浴びを終わるまで待ってもらった。
茹だるような夏だから、冷やされながら運ばれてきた。
彼らの故郷の名が刻印された厚紙の箱の中に、皺の付いた古い紙でばらばらにおおわれていた。
野菜の呼気で湿った紙をくるくる脱がしていくと、緑の肌に触れたところにぬめりがあった。
清水で洗い流すと、いずれもまだ生きようとするように輝く水たまをまとった葉を張った。
西日のさしこむ時間だったので、ますます輝かされて金属のようになまめかしい。
余命の短そうなものからさばいても、一人の人とナイフに持て余す豊かさで、
両隣から順に、直下の階、両隣の隣、両隣の隣の隣と訪ねてついに他人に会って、半量ゆずり渡した。
そこの玄関は大小の小さな靴で埋めつくされていて、細君は言葉が通ぜず、
亭主は南の遠い国の生まれだと告げた。この国でもよく知られるほどむごい戦争にあって、
悲壮の叙事詩ばかり残して滅びた国の名だった。
男は、ワア、コンナニ、イッパイ、と言って、もう一度イッパイと言った。
そして微笑みながら野菜を抱いて、両隣の隣の隣へ帰っていった。
私は調理台からはみださなくなった野菜を、根菜、果実、葉物と並べかえてみた。
そのひとつたりとも傷ませることなく食べおおせるようにやっと思えて、調和した気持ちを得た。
たまたま包丁を昨日研いだことを、無意識の予感だったと思った。
水道の下に晒して角度を弄ぶとぴしぴしとやいばがきらめいた。
ある混んだ葉を切ると弾けるようにふるえて裂けた。
果実の外皮を抜けると泉のように電解液が満ち、白い種子がやわらかな綿と寄り添っていた。
細いものは誠実に、小さいのは繊細に、大きなのは清浄に両断されていった。
そしてなんでも、外見(そとみ)から一貫してすみずみまで、整ったフラクタルだった。
どのように食べても良かった。油に寝かせれば味が濃くなって、パン生地に含めば香りがついた。
豊かな栄養を豊かな栄養として得るには、すこしずついくつもまとめて煮るのもよかった。
目を瞑ってゆっくり食めば、どれでも甘味と辛味があって、そのあと苦味と酸味があった。
全ての味がするスープだった。
それから三日間、涼しい昼が続いた。
だから、楽園に生まれた子供のように過ごした。
<終>