20151227
2rot13.net公開作品『シュレーディンガーの猫/Schrodingers Katze/Schrodinger's cat』考察
※筆者は作者、作品とは一切関わりが無く、本項考察/解題の妥当性を保証するものではありません
03~04
●冒頭電話機からの台詞
られられ
られられ
↓
られられられられ
られられられられ
られられられられ
・文字量がぴったり2倍になっていることから、
音声が文章に変換されモニターに出力されているのでなく、
(コピー&ペースト等のワープロ的手法で)入力された文章が先に作成され、
それが音声として読み上げられていることがわかる。
話者の正体が人間ではない可能性が高いことをほのめかしている。
・また日本の歌謡曲『ラブライブ!イメージソング"ラブノベルス"』歌詞内に、
"られられ…られられられる?"という一文が登場する模様。
同ラブソングの歌詞内に下記のような一文があり、
主人公へのヒント、挑発のような意図を含むと考えられる。
"鈍すぎるのよ 天才的だわ本当" "結論は…好きだよ"
また、以下のような歌詞も含む。
作品や作者自身への皮肉を隠しているとも考察できる。
"全編たぶんラブストーリー" "本編よりサイドストーリー進める癖は直しなさい"
●僕ですよー
・先の「られられ」からつながる、自分の正体は前述の通りですよという問いかけの意味と取れる。
オレオレ詐欺の通話開始時の常套句でもあり、のちに「僕」の答えが主人公の記憶の中から引き出される隠喩とも。
「僕」には「しもべ」の読みもあり、人間(特に主人公)の従僕であるコンピュータープログラムを意味するとも考えられる。
「僕」はプログラムを作った少年時代の主人公の一人称でもある。
●こないだ□□□農場に行ったのね で、初めて羊を見たんだけどさ
・初めて羊を見たのは、それまで視覚(=四角,□)のない存在だったため。
・□□□は主人公の名前でもあり、ここでは主人公の生きる現実世界に来たことを指すとも取れる。
●後ろの方でおっさんがられられられられ叫びだしたのね
ご機嫌なのかな?とか いや、これは羊を追うときの掛け声なのかも
・羊のドリーは人類による初の体細胞クローン生命体。人工生命である『僕』を人類が管理しようと追う隠喩。
・『僕』が『られ』をローマ字表記で"RARE"と認識する場合、おっさんが類稀なものと出くわしご機嫌であると推測できる。
・『僕』が上述の近代の日本の歌『ラブノベルス』をおっさんが歌ってると認識する場合も、おっさんがご機嫌であると推測できる。
●とか思いながら振り向いたら 羊の鳴き声だったの~すごいなーとか思わない?
・観測するまで、羊(人工生命の象徴)か人間かの区別がつかない状態の比喩
・手に入れたばかりの視界に興奮していることを仄めかしている、あるいは単に隠しきれず衝動的に語っている(子が親に語るように)
●意味はあるのかな~この限定された空間に関して言えば意味のないものはない
・散りばめられた推理のヒントや隠喩を示唆している。
●なぜならこれは僕と君とによって作られた空間だからだよ
・表面的には、『僕』がズタズタにPCをハックされた男性と『僕』の関係性を抽象的な言い回しで煽っているだけのように見える
・文字通り、主人公□□□とプログラム知性によって状況や環境が作られていたという物語の結末の意味とも取れる
・作者と読者(鑑賞者)によって作られた(展開/再生されている)空間という意味とも取れる
●目的、或いは理由は、必ずあるし、言葉には常に意味がある
・硫化水素事件、『多分反動形成だと思います』とうやむやにしたイジメ事件、
謎の人物からのハッキングなど、説明の無い映像演出などについての作品からのアナウンスと取れる。
(1話からこの時点4話1:30まで累計7~8分で、これ以降、意味のあるのか無いのか受動的に把握しにくい描写が増える)
●実証されるといいな→実証するのは君だよ
・この時点での主人公は『僕』の意図しないミス、意味のない情報の露呈を探し、相手を暴き出そうとしている。
「実証されるといいな」はこの思考に基づいた『僕』への挑戦的な発言のようだが、
この時点で大量の謎を散りばめた作品そのものに対して「収拾が付くのか?」という皮肉とも取れる。
「実証するのは君だよ」と返されて再び両者の会話の関係性が収束するが、
この台詞もまた読者の考証を促す台詞としての意味も持ったまま直前の台詞と繋がっている。
●RAID 1の片方 引っこ抜いたでしょ 駄目だよそれ ホットプラグじゃないよ 壊れちゃうよ
・主人公□□□がしばらく『僕』に応答しない。モニター上の残り時間が狂って表示される。
・ちょうどこの瞬間モニタ右下に表示される残り時間が0°45'45"になる。0°=RAID
・更に動画の再生時間がちょうど1:45になる(残り0秒になる瞬間は1:59(ゴクッ=緊張し生唾を飲む漫画上の擬音語)になる)
・45'45”=シコシコ 『駄目だよ/それXじゃないよ/壊れちゃうよ』はポルノコミック/アニメ/ゲームのやや古い定型句的表現と思われる。
過去にweb上で一種のネットスラングとして扱われたことで『僕』のフランクな日本語会話上の語彙の候補の上位に?
●られられられられられられ
・主人公がられられと連呼する難解なシーン。日本語の数字の語呂合わせでラレは60なので、
1時間、1分、1秒を構成する時間単位が『狂う』という隠喩であれば、
連呼するのは後に物語の核心で明かされる世界中の時計が狂うことの象徴と取れる。
表面的には、ちょっと待ってと言いながら、『僕』が関心を抱いたという羊の鳴き声の話題を出して間を稼ぎつつ、
『僕』の話での鳴き声の正体を知るとき同様、ある事象を観測する直前に立ち会っているという示唆として読んでいける。
●ゼロになるだけか なんだ
・沈黙の中でモニタの残り時間、動画の再生時間が2:00になった直後、観測し終わった主人公の台詞
06
●ゼロになるだけか なんだ
04のラストシーンが冒頭に挿入されている。06では2:00ではなく0:30が観測される。
●ああ 時間が狂ってるね/僕にはなんの不都合もないですよ
・この会話の最中、部屋の外では世界中で飛行機に内蔵された時間が狂っている。
・世界の時間を進めてしまうという物語上の大仕掛けで実質的に影響を受けないのは、
世界の観測者の立場にある『僕』を含めたごくわずかの登場人物のみ。
●何なら部屋中の時計を進めるといいよ→時刻の問題じゃないよ
・後半の物語の展開を示唆
・表面的には主人公が『僕』の落ち度を追求する激しい挑発の契機となる
●俺ができることがいくつかあって その内のいくつかにたまたまチャンスがあって
その内のいくつかがたまたま有効に動作して その内の一つがクリティカルな変化をもたらすんだ
・幼少時から主人公が気に入って、よく同等扱いする他人に言う台詞。
エンディングでは主人公自身の決断の動機となって有効に動作し、人生にクリティカルな変化をもたらす。
・他にも主要人物が何か大きな決断を迫られる時、この思想に則ることが多い。作品を通し象徴的な台詞の一つ。
●残念 僕は□□□□でしたー→そう そして俺が考えていたより遥かに優秀だということがわかった
・続く主人公の台詞から、ここでの□□□□に入る単語が優秀な著名人の名前とわかる。
モニタの時間を0にした後の主人公の軽口の中の□□□□も同じ単語と考えられ、
当てはまる単語は単一だが意味合いが皮肉・冗談から敬服・真実味へ大きく変化する。
●ゲーム開始までのログは消されてたけど開始からのログは残ってたよ
・作品の6話時点までの構成そのものを示唆。人物たちの経歴や過去の出来事はほとんど不明だが、
物語の開始から現在までのログは各話の動画として自由に参照できる。
2rot13公式webページでは各話の静止画のアーカイブも閲覧可能。
●だいたい*o**leの非公開サーバとA*az**のクラウドの管理サーバだ
・どちらもアルファベット六文字(******)からなる。
●僕はダ□アン・ハース□です
ダミアン・ハーストは物議を醸す表現で著名なイギリスの現代美術家。
存命。イギリスでも最重要の芸術家の一人とみなされる。
特に巨大なケースなどに生物の死体を閉じ込め、
生と死の両義性を考えさせる作風が知られる。
●君のレベルがFに上がりました
TCP(Transmission Control Protocol)、FCP(function control protocol)と掛けている?
またFは教育機関での学業成績や教育機関そのもののランクを表す際に最も低いランクであることが多く、
日本語圏のネットスラングで蔑称として"Fラン"などの用法で用いられる。
●置いといて→つ□
・"つ□"は日本語圏の、やはりやや古くに流行したネットスラング。
"つ"は手を表し、"□"は箱のような物体を意味し、合わせて何かを置いている絵のように見る。
"□"の記号が抽象的な箱の概念を意味することが作中で強調されると共に、
『僕』がネットスラングを多用することが『僕』正体のヒントとして強調される。
●君がいる場所は現代美術の最高峰にして現代文学の最先端なんだ もっと楽しんだほうがいい
・先述のダミアン・ハーストのジョークを引きずった台詞。
・現代文学の最高峰に数えられる日本語四文字の作家名にはボルヘスなどがある。
著作に知覚や経験を全て記憶していく物語、一人の人間を想像しようとする物語、神の恩寵で停止した時間を与えられる物語、
宇宙の全てを見通すことができる物質の出現で成人の主人公が十代の自分と邂逅する物語などがあり、
シュレーディンガーの猫のエッセンスと関連付けられる。
・コンピュータープログラムを用いた作品『僕』はコンピューター言語を用いた文学の一種とも捉えられる。
・単純に先鋭的な表現の強調、あるいは『僕が』主人公・読者を煽っている台詞と読むこともできる。
●熱狂と恍惚と死
・再生時間が4:44
●考えることを楽しめ
・本作の、特に序盤から中盤の作りを象徴する台詞。
●君が子供だったら きっと狂喜して鼻血を出しているよ
・後の主人公の回想シーンで子供が鼻血を出す
●君の失言により 出身がニュージーランドではないということが分かった
・「こないだ□□□農場に行ったのね で、初めて羊を見たんだけどさ」という『僕』の雑談に対して。
ニュージーランド出身ならば、羊をごく最近初めて見たということは考えにくい。
●でも、キーウィがみんな羊を追っているわけではないでしょう?
・キーウィはニュージーランドのスラングで、ニュージーランド人の意。
転じて、ニュージーランド人の誰もが羊に親しいとは限らないという反論。
08
●もしかしてキ□□イごっこかな?
・白眉。この一節を言及したい為にこのノートを立ち上げている。
『僕』音声では「キ難しイ」と読み上げられるが、
明らかにキチガイと読ませようとしている。
直前の会話のキーウィとも掛かっている。
また"□"は作中主人公を象徴する記号でもあり、
『僕』が直前に『ダ□アン・ハース□』『つ□』などと
猟奇的な人名、侮蔑的表現に用いて挑発してきた流れを踏襲する。
更に物語の終盤には、『僕』の答えがまさに主人公自身に限りなく近い存在であったという答えが用意される。
また、こうした「限定された空間」の中に多義性を含ませる手法自体が表題シュレーディンガーの猫を象徴している。
作品を通しても平易で、かつ高度な優れた言葉遊びの一つ。
●君には口を開かせる努力が必要だよね
・感じの"口"(くち)と記号の"□"(しかく)を掛けている。
●それは失言だったね
・配慮のない失礼な発言の意味の失言と、相手に推理の材料を与えてしまったという意味での失言
力尽きました